空き家対策特別措置法の内容と与える影響
空き家対策特別措置法が施行されたからといって、すぐに全国の空き家を一斉に強制撤去する強行策がとられるようなことはないでしょう。
空き家も所有者の財産であり、勝手に撤去することは財産権の侵害になるからです。
では、市町村は空き家対策として一体何を始めるのでしょうか?
①空き家の調査と現況の把握
②措置1:解体の通告や強制対処が可能に
③措置2:固定資産税の特例対象からの除外
④空き家対策が不動産市場に与える影響を考える
①空き家の調査と現況の把握
市町村が何をするにしても、まずは行政区域における空き家の現況を確認しなければ、対策や措置を講じることもできないのは言うまでもありません。
(逆に言えば把握しきれていないということです。。)
そのため、市町村が最初に行うのは空き家の所在と所有者の把握で、そのために必要な調査や情報の提供を求めることができると規定されています。
その上で、市町村は対策が必要な空き家を選別することになり、所有者に対して適切な管理を促進するため、情報の提供や助言その他必要な援助 を行います。
そして、特に対策が必要な「特定空家等」にみなされると措置が講じられます。
②措置1:解体の通告や強制対処が可能に
空き家対策特別措置法では、著しく保安上の危険となるおそれがある空き家、著しく衛生上有害となるおそれがある空き家について、強制的に対処できる規定が設けられました。
しかし、強制対処はいきなり行われるのではなく、段階的な手順を踏みます。
・改善への助言と指導
最初に行われるのは、除却(解体)、修繕、立木竹の伐採等の助言又は指導です。
助言や指導を受けても改善しなければ、猶予期限を付けて改善するように勧告します。
・改善がなければ勧告
助言や指導、勧告ならば、まだ何もしなくて大丈夫だと思うでしょうか?
ところが、勧告の対象になると、後述する固定資産税の特例対象から除外されます 。
つまり、助言や指導の時点でイエローカードが出されていると思わなくてはなりません。
・勧告でも改善されなければ命令
勧告にも従わないと徐々に重くなり、猶予期限を付けて改善命令が出されます。
このとき、対象者には意見を述べる機会(意見書や意見聴取)が与えられるので、どうしても改善できない理由があるなら、この機会を利用して陳述できます。
・命令の次は強制対処
命令の猶予期限を過ぎても改善を完了できないと、いよいよ強制対処の対象になります。
ここで気を付けなくてはならないのは、命令を受けて改善に着手すれば良いのではなく、猶予期限までに改善を“完了”しなくてはならない点です。
改善命令を無視した場合、改善に着手しても不十分な場合、改善が猶予期限までに完了の見込みがない場合のいずれでも、市町村は強制対処が可能です。
つまり、「改善しているフリ」は許されない厳しい規定になっています。
ちなみに、強制対処の内容は必要な改善なので、倒壊の危険がない空き家まで強制撤去するようなことはないですが、改善の費用は所有者負担です。
所有者が負担できなくても、市町村が負担してその費用を所有者に請求します。
ただ、所有者が分からなくなる経緯は、相続時に登記変更の手続きが行われていないことも関係しています。
相続の手続きを行わなくても、自動的に法廷相続人が次の所有者になるため、戸籍からそれを特定することはできますが、支払いに応じなかった場合はどうするのか?という問題は残ります。
③措置2:固定資産税の特例対象からの除外
特定空家等に対する市町村の改善勧告があると、土地に対する固定資産税の特例(優遇措置)から除外され、土地の固定資産税が最大で4.2倍にも増額されます。
・住宅用地における固定資産税の特例
住宅の敷地 固定資産税 都市計画税
200㎡までの部分 1/6に軽減 1/3に軽減
200㎡を超える部分 1/3に軽減 2/3に軽減
※200㎡を超える部分は床面積の10倍が上限
ただし、土地の固定資産税が上がっても、家の固定資産税が相当に高ければ、使わない空き家を解体した方が、トータルの固定資産税が安くなる場合もあります。
その固定資産税については、こちらで詳しく解説しています。
④空き家対策が不動産市場に与える影響を考える
市町村の空き家対策が進むと、所有者は何らかの対策を考えなくてはなりません。
すべての空き家が対策の対象ではないですが、売買や賃貸を目的として、空き家や解体後の土地が、不動産市場に流れると十分に予想できます。
全体的な経済では、いわゆる塩漬けになった不動産が流動性を持ちますし、解体・修繕等も費用が発生するのでお金が動き、活性化に繋がります。
また、空き家の活用事例が増えれば、地域にとっても有効に作用するでしょう。
その反面、空き家物件が不動産市場に増えても、不動産の買い手が増えるわけではなく、市場原理を考えると、供給が過剰になって価格が下がるとも言われています。
どれほどの影響があるかは分かりませんが、需給バランスが崩れる可能性はあります。
空き家の所有者にとって、売却価格や賃貸価格の低下はマイナスでしかなく、しかも人の少ない地域で同時期に流通すれば、周辺相場への影響は大きいでしょう。
そうなると、空き家ではない所有者も、間接的に資産価値が下がる影響を受けます。
地域によって対象になる空き家の数は違うとはいえ、対策前に先手を打って売り抜けるつもりでいないと、価格が下がって売るに売れないかもしれません。
⑤税収への影響も考えられる
上記は空き家を所有する人が受ける影響やその内容でしたが、間接的な影響も考えられます。
固定資産税というのは地方税という分類になり、つまりは各自治体の税収となります。
その税収を使って、道路整備や公営の交通事業の運営、福祉・消防事業の提供、ゴミや下水処理などが行われています。
固定資産税が4.2倍になっても、全員がそれを納めれば問題ありませんが、使い道もなければ活用もできない不動産に高い税金を払うことに納得できない人もいるはずです。
ましてや売って手放すことも難しいとなれば、相続放棄という形を取る人が増えるかもしれませんし、実際今も年々増えており、その一部は固定資産税の負担が影響していると考えられます。
空き家の管理を厳しくすることは、この放棄の動きも加速させることにつながる可能性があり、地方自治体の税収がますます減ります。
そうなれば適切なサービスを提供でなくなり、そこに住む人全員が影響を受けてしまうのです。
その③に続く